現在の医療機関の開設者の半分以上が60歳以上であり、後継者問題が顕在化しています。
今回は医療機関の承継と税務についてご紹介します。
個人診療所の親子承継の場合
個人診療所の親子間の承継でも、現診療所の閉院手続きを行い、新たに子の診療所を開設する必要があります。保健医療機関コードも変更され、テナントの場合は親との賃貸借契約を解約し、新たに子が家主となる必要があります。親から子へ引き継がれるものは患者情報、カルテ、事業用資産です。事業用資産には土地建物・内装・医療機器・器具備品および棚卸資産が含まれます。内装・医療機器・器具備品は未償却残高(簿価)、棚卸資産は承継時の棚卸額で引き継がれます。自己所有の土地建物がある場合は、土地は路線価で、建物は固定資産税評価額で引き継がれることとなります。これらの事業用資産を親から子へ引継ぐ際には譲渡所得税と消費税に注意することが必要です。簿価による引き継ぎの場合には譲渡所得は発生しませんが、簿価より高く引き継げば譲渡所得の対象となる場合があります。これとは逆に、簿価より低くしてしまうと贈与税の対象となる場合があります。加えて、これらの承継資産は課税売上に該当しますので、消費税課税事業者は消費税の計算に含める必要がありますので留意が必要です。
このように親から子へ事業用資産をどの様に引き継ぐかによって税負担が変わってきますので、土地建物の引き継ぎなど、具体的な引き継ぎ方法を検討する必要があります。
医療法人の出資持分の「あり」・「なし」の違い
医療法人においては、出資持分のあり・なしにより税務上の取扱いが異なります。
出資持分とは、社員が退社時に出資割合に応じて得られる払戻請求権と、医療法人解散時の残余財産分配請求権の2つの財産権のことをいいます。
平成19年4月より前に設立された医療法人を出資持分あり医療法人、平成19年4月以降に設立された医療法人を出資持分なし医療法人と区分しています。
出資持分は財産権である為、相続する出資持分や贈与された出資持分は相続税や贈与税の課税対象となり税金が課されます。
出資持分なし医療法人の場合
出資持分が存在しないので、承継の手続きは理事長の立場を親から子へ引き継ぐだけです。親が医療法人に拠出した金額は返金され、利益で増加した純資産は親が退職金として受け取ります。
一般的には、理事長の退職金の額は「最終月額報酬×勤務年数×功績倍率(3倍程度)」で計算します。退職金には税金が発生しますが、所得控除や2分の1課税の適用により税負担を押さえることができます。
出資持分あり医療法人の場合
出資持分あり医療法人の場合、親から子へ引継ぐものは理事長の立場と出資持分(財産権)です。出資持分は時価で評価されます。
出資持分の引き継ぎは複雑であり、業績が好調で純資産額が膨らんでいる医療法人では通常は理事長の立場のみが引継がれ、出資持分は親の持分のままとなってしまう例も少なくありません。
出資持分は計画的に引き継がなければ、相続時に多額の税金が発生することとなる可能性があります。
認定医療法人制度について
平成19年第5次医療法改正以降、出資持分あり医療法人の設立ができなくなりました。
現在、医療法人のうち3分の2が出資持ち分ありの医療法人です。
厚生労働省は、医療法人の長期的・持続的な経営安定化のために出資持分あり医療法人から出資持分なし医療法人への移行を進めていますが、なかなか移行は進んでいません。
出資者が持分を放棄し出資持分なしの医療法人に切り替わるときに多額の贈与税が発生しうるという問題がありますが、この問題を解決するために認定医療法人制度が導入されました。一定の要件を満たして国の認定を受けることが必要となりますが、贈与税が非課税となるため、持分ありから持分なしへのスムーズな移行が可能となります。
国の認定を受けるためには厳しい要件があり、手続きが煩雑です。認定申請期限は2026年12月31日までですので、税理士などの専門家にご相談し、検討することをお勧めします。