会計・税務 法改正

【令和8年度税制改正】
個人開業医必見!「178万円の壁」「489万円の崖」
実務上意識すべき給与収入の分岐点

2026.02.09

  • #医科
  • #歯科
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2025年12月に公表された「令和8年度税制改正大綱」では、物価上昇による実質的な税負担の増加を抑える観点から、基礎控除および給与所得控除の見直しが行われました。
本改正は、個人で診療所を経営されている先生方にとって、ご自身の所得税負担のみならず、専従者給与の設計やクリニックで働くスタッフ・勤務医の年収設計にも影響を及ぼす重要な内容です。
本稿では、今回の改正を踏まえて実務上あらためて意識しておきたい給与収入帯のポイントについて、個人開業医の目線で整理します。

1.改正のメインテーマ 物価上昇を踏まえた「基礎控除」と「給与所得控除」の見直し

今回の改正では、物価上昇により実質的な税負担が増えることを防ぐため、控除額を見直す方針が示されました。
令和8年分以降の所得税における基本の控除額は、次のとおり引き上げられます。

・基礎控除(本則):現行 58万円 → 62万円
・給与所得控除(最低保障額):現行 65万円 → 69万円

さらに、いわゆる「三党合意」に基づき、所得税の課税最低ラインを実質的に178万円程度まで引き上げることを目的とした特例措置が、令和8年分・令和9年分の2年間に限って設けられました。
この特例は、所得金額に応じて適用内容が大きく変わる点が最大の特徴です。

2.「合計所得489万円の崖」 基礎控除の特例加算が大きく変わる分岐点

今回の改正で、個人開業医の先生方がまず押さえておきたいのが、「合計所得金額489万円」という明確な分岐点です。

■ 合計所得金額489万円以下の場合
事業所得(収入-経費)などの合計が489万円以下の場合、基礎控除の特例加算は42万円となります。

・基礎控除:62万円(本則)+42万円(特例)= 104万円

給与所得者の場合は、これに給与所得控除(最低保障額69万円等)が加わり、給与収入178万円程度まで所得税がかからない構造となります。

 

■ 合計所得金額489万円を超える場合
一方、合計所得金額が489万円を1円でも超えると、基礎控除の特例加算は一気に5万円へ縮小されます。

・基礎控除:62万円+5万円= 67万円

489万円以下の場合と比べ、37万円もの控除差が生じるため、この水準は実務上「489万円の崖」と呼ばれています。
小規模な診療所を営む先生にとっては、所得の見込み管理や専従者給与の設計を考える上で、非常に重要な判断基準となります。

3.給与収入に関する実務上の注意点― 給与所得控除の構造を踏まえた収入帯の分岐

給与所得控除は、年収に応じて段階的に計算される仕組みです。
今回の改正では、給与所得控除の最低保障額が引き上げられる一方で、控除率そのものの体系は維持されています。
そのため制度上「〇〇万円の壁」と明示されているわけではありませんが、実務上は、
・給与収入が一定水準を超えると
・収入増加に対する控除額の増え方が緩やかになり
・結果として「手取りの伸びが鈍く感じられる」ゾーン
が存在します。

今回の改正内容を踏まえると、給与収入おおむね600万円台半ば以降は、

・専従者給与
・勤務医として比較的高めの給与を受け取っているケース
・医療法人から役員報酬を受けている院長先生
・高給の事務長・管理職スタッフ

 

といった層で、手取り額のシミュレーションを丁寧に行う必要性が高まる水準といえます。

※いわゆる「665万円の壁」という表現は、給与所得控除の計算構造と基礎控除特例の影響を踏まえた実務上の目安であり、制度上の正式な区分ではありません。

4.高所得層に関する留意点

基礎控除(本則62万円)は、合計所得金額2,350万円以下であれば引き上げ後の額が適用されます。
一方で、今回の基礎控除の特例加算については、合計所得金額が一定水準を超えると段階的に縮小・消失します。
そのため高所得層では、

 

・控除拡大の恩恵が限定的になる
・収入増による税負担増が相対的に大きくなる

 

といった点に注意が必要です。

5.まとめ:クリニック経営へのメッセージ

令和8年度税制改正は、

・低~中所得層には「178万円の壁」対応による減税効果
・中間層には「489万円の崖」という明確な分岐点
・給与所得者には、収入帯によって手取り感が変わる構造
・高所得層には、控除特例の縮小による影響
という、所得水準ごとにメリハリのある内容となっています。

 

クリニック経営においては、

・専従者給与・勤務医・スタッフの年収設計
・給与と事業所得(役員報酬)のバランス調整
・将来を見据えた所得見込み管理

といった視点が、これまで以上に重要になります。
今回の改正を「知らなかった」で終わらせず、クリニック経営の最適化につなげるためにも、早めの確認と対策をおすすめします。
ご不明点や、具体的な手取りシミュレーションについては、お気軽にご相談ください。